中公文庫プレミアム 編集部だより

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日本人のイギリス好き


英ウィリアム王子、東日本大震災の被災地を訪問 Prince William travels to ...

イギリスの若きプリンス、ウィリアム王子が、さわやかな印象を残して日本を後にしました。

イギリスと日本はともに島国であり、世襲君主を戴く民主主義国であるなど、多くの共通点があります。かつてのダイアナフィーバーや、今回のウィリアム王子来日を見ても、日本人はイギリス(そして英王室)にとても親近感を持っているようです。

こうした日本人のイギリス好きはいつから始まったのでしょうか。2月刊の中公文庫プレミアム『滞英偶感』(加藤高明・著)には、それを解く鍵が隠されています。

本書の著者である加藤高明は、大正時代に二大政党の片方「憲政会」を率いた政治家で、第二次護憲運動の後、第24代の内閣総理大臣になった人物です。彼はそれ以前、三菱の社員として、そして駐英公使、大使として、通算10年に及ぶイギリス赴任を経験していました。幕末の開国以来、イギリスは日本にとって学ぶべき「模範」であり、追いつくべき「目標」であったことは、よく指摘されているところです。それを身をもって体現した人物こそ、加藤高明であったと言えるでしょう。

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『滞英偶感』は、加藤が駐英大使在任中に、当時の日本の5大紙の一角「時事新報」に匿名で連載したイギリスに関するレポートです。ここには、イギリスの政治制度、議会、王室、税制、女性参政権、新聞、文化、生活にいたるまで、実地で見聞したことが詳細に語られています。同時に、彼がいかにイギリスに心酔しているか、アングロファイル(イギリス贔屓)の一端も垣間見せてくれます。

アングロファイルには、幕末の五代友厚、福沢諭吉以来の綿々たる系譜があります。吉田茂・健一父子もその中に入るでしょう。加藤の同時代人であった夏目漱石になると、ちょっと屈折しています。そのなかで、加藤が飛び抜けてイギリスから多くのことを学びとろうとしていることは、本書からよく読み取れると思います。

本書には、京都大学の奈良岡教授による、詳細な脚注と詳しい解題がついています。100年以上前の文章ですが、もとが口述筆記(それに講演録も2本収録しています)だっただけに、現代の読者にもわかりやすいです。

今も変わらぬイギリスへの親近感、憧れを、本書から嗅ぎ取ってみてください。

 

滞英偶感 (中公文庫)

滞英偶感 (中公文庫)