中公文庫プレミアム 編集部だより

永遠に読み継がれるべき名著を、新たな装いと詳しい解説つきで! 「中公文庫プレミアム」を中心に様々な情報を発信していきます!

『ケネディ演説集』(高村暢児・編)裏話

編集者Fです。

 

さて、このブログでは、中公文庫プレミアムを中心に、担当した文庫の編集作業の裏話などを披露していきたいと思っています。

まずは、中公文庫プレミアム第一弾の『ケネディ演説集』について。

 

親本(文庫化する前の単行本のこと)は、1964年、学習研究社さんから刊行されました。そのときのタイトルは『絶叫するケネディ その最重要演説16編』でした。

演説の翻訳だけでなく、編者の故・高村暢児さん(産経新聞記者を経て作家)の書き下ろしによるケネディの評伝(文庫版では割愛)、ケネディ暗殺事件の背景(文庫でも収録)が付された労作ですが、刊行日付はなんと1964年1月10日、ケネディが暗殺されたのは前年の11月22日ですから、わずか2ヶ月たらずで刊行された事になります。

通常、単行本の編集作業は刊行の1ヶ月前に終了しなくてはなりません。しかも年末年始の休みが入りますから、企画決定→執筆→編集作業に割かれた時間は3週間足らずと推測されます。常識破りの早さというか、かなりの無理があったと思われるのですが、それにしては数字や固有名詞等の誤り、誤植がほとんどなかったことに驚かされました(見知らぬ先輩編集者に頭の下がる思いです)。

 

それでもやはり、改めて校正をしたところ、若干修正すべき箇所が見つかりました。こういう場合、著者がご存命の場合は、著者にお願いして直していただくのですが、編者の高村さんは1998年に亡くなられています。そこで、著作権継承者(ご家族)の了解を得た上で、解説を執筆していただいた越智道雄先生とも相談の上、最低限度の修正を行いました。

そのなかで面白かったのは、本書に収録されているネディの有名な大統領就任演説(「国家が諸君のためになにをなし得るかを問わず、諸君が国家のためになにをなし得るかを説いたまえ」)の英語原文です。

現在ケネディの演説原文は、以下のサイトで読むことができますし、本も刊行されていますが、それらに掲載された文章と若干違う箇所が見つかったんですね。

John F. Kennedy Presidential Library & Museum

The Public Papers of President John F.Kennedy

 

どちらに従うべきか迷ったのですが、越智先生によりますと、ケネディは、会場の雰囲気や聴衆の反応を見ながら、アドリブで原稿に書いてあったことと変えて演説することがしばしばあったのだそうです。

親本に収録された原文のリソースは、1963年当時のメディア環境を勘案するに、アメリカ側が配布した演説草稿に基づく文書に依っているものと推測されます。一方、過去の音源に触れるチャンスが飛躍的に増えた現在、上記のサイト等の文章は実際にケネディの喋った音源から起こしたものと推測されます。今回の文庫化では、実際に喋った言葉を掲載することにしました。

 

これはほんの一例ですが、文庫本というのは、単に親本を小さなサイズに収めたものではありません。担当編集者をはじめ、さまざまな思いや判断が、そこには込められています。そのあたりも注目していただけると、編集者冥利に尽きるというものです。

 

 

 

 

ケネディ演説集 (中公文庫)

ケネディ演説集 (中公文庫)

 

 

  

ワスプ(WASP)―アメリカン・エリートはどうつくられるか (中公新書)
 

  

 

 

2014年4月25日刊のご紹介

編集者Fです。

 

4月25日から中公文庫プレミアムが開始、まずは第1弾として以下の2冊を刊行しました!

 

『ケネディ演説集』(高村暢児・編)

『13日間 キューバ危機回顧録』(ロバート・ケネディ著)

 

長女のキャロライン・ケネディさんが任命されるなど、新たに見直されているケネディ大統領。米ソ二大超大国を中心に、世界が共産主義陣営と自由主義陣営に分かれて睨み合い、お互いのコミニュケーション手段も限られていた時代にあって、アメリカ的価値観を強く主張しつつも、互いを理解し尊重しあう事の重要さを説いた若き指導者の言動は、冷戦が終結したにも拘わらず、様々な対立や衝突が絶えない現代世界において、さらなる重要性を増しているのではないでしょうか。

そういう思いをこめて、まず上記の2冊を世に送り出した次第です。

 

是非ご一読を! 

 

ケネディ演説集 (中公文庫 ケ 5-1)

ケネディ演説集 (中公文庫 ケ 5-1)