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中公文庫プレミアム 編集部だより

永遠に読み継がれるべき名著を、新たな装いと詳しい解説つきで! 「中公文庫プレミアム」を中心に様々な情報を発信していきます!

映画『トラ・トラ・トラ!』と『ハル回顧録』

編集者Fです。

 

11月刊中公文庫プレミアムの1冊、『ハル回顧録』は、日米開戦時のアメリカ国務長官で、ハル・ノートで知られるコーデル・ハルの自伝です。

  

ハル回顧録 (中公文庫プレミアム)

ハル回顧録 (中公文庫プレミアム)

 

 

ここで個人的な思い出を語らせていただきますと、私がはじめて、ハルという人物を意識したのは、たまたまテレビで見た映画『トラ・トラ・トラ!(Tora! Tora! Tora!)』(1970年)でした。日独伊三国同盟締結によって日米関係が悪化し、やがて真珠湾奇襲という形で開戦するまでの経緯を描いた日米合作映画で、当初、日本側の監督として黒澤明が起用されましたが、撮影が始まってまもなくトラブルを起こして降板したことでも知られています。

映画ファンの中には「黒澤明が最後まで監督していれば・・・」と言う人も少なくないのですが、できあがった作品(アメリカ側監督はリチャード・フライシャー、日本側は舛田利雄深作欣二)も、なかなかよくまとまった良作だと思います(黒澤監督降板の経緯は田草川弘黒澤明 vs.ハリウッド』に詳しく書かれています)。

  

黒澤明vs.ハリウッド―『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて (文春文庫)
 

 

 私が最初に見たのは小学生の頃だと思うのですが、ハリウッドらしくお金をかけた真珠湾奇襲の場面が終わった後、アメリカに駐在する眼鏡をかけた日本人外交官を、白髪のアメリカ人が叱りつける場面がありました。言うまでもなく、真珠湾奇襲が始まった後で宣戦布告を通告されたハル国務長官が、野村吉三郎大使に「五十年の公職生活を通じて、これほど恥知らずないつわりとこじつけだらけの文書を見たことがない」と言った場面です。

 

その後、アメリカは真珠湾奇襲を「恥辱の日(a date which will live in infamy)」と名付け、「リメンバー・パールハーバー」を合い言葉に(それまでの孤立主義を捨てて)第二次世界大戦に参戦するわけです。

ちなみに、2001年の秋、『パールハーバー』(マイケル・ベイ監督)という映画が公開されました。山本五十六長官以下連合艦隊幕僚が、子供がたこ揚げをしているすぐ側の野外で、「尊皇攘夷」と墨書された戦国時代の幟がはためく下、作戦会議を行うという、珍妙な作品でしたが、私はたまたまこの映画を見たのは航空機を乗っ取ったテロリストが国際貿易センターに突入して自爆する、いわゆる9・11テロの直前でした。

映画では(実際には行われなかった)日本軍機による病院攻撃が描かれるなど、「反日映画ではないか」という声が日本側からあがりました。映画ファンのある学者さんと打ち合わせをした時、この映画の話題になり、「日本の真珠湾奇襲や神風特攻隊が蒸し返されるんじゃないか」と言い合ったことを覚えています。


真珠湾攻撃 the pearl harbor strike - YouTube

 

 ところで、コーデル・ハルには(ハル・ノートほど知られていないようですが)、国際連合の創設に尽力し、ノーベル平和賞を受賞したという側面があり、この回顧録でも、その経緯について詳しく触れられています。

ご存じのとおり、国際連合には第二次世界大戦における「連合国軍」の継承という意味合いがあり、だからこそ、枢軸国側にあって連合国軍と日本やドイツは「敵国条項」を適用されているわけです。

ハルが尽力した第二次大戦後の「戦後処理」が、ソ連(および配下の共産主義国家郡)というプレイヤーの参入によって苦慮を強いられるあたりも、この回顧録には描かれています。そうしてできあがった「戦後秩序」は70年を経てもなお基本的にはそのまま継続されています。そして、戦後日本はその枠組みのなかで国際政治というゲームに参加しているわけです。

刊行が開始された吉田茂回想十年』(全3巻)等と合わせて「戦後」を考える材料にしていただければと存じます。

 

回想十年(上) (中公文庫)

回想十年(上) (中公文庫)

 

 

 

開戦神話 - 対米通告を遅らせたのは誰か (中公文庫)

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