2・26事件から80年(前編)/磯部浅一「獄中手記」
編集者Fです。
今年の2月26日は、ちょうど2・26事件から80年にあたります。昨日、BS日テレの「深層NEWS」で2・26事件が取り上げられ、中公文庫プレミアム最新刊・磯部浅一『獄中手記』の解説を執筆いただいた筒井清忠先生がゲスト出演されました。
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今回、この『獄中手記』を編集するにあたり、まず相談にあがったのが筒井清忠先生でした。そのときいただいたアドバイスが、磯部の手記や記録は、河野司編『二・二六事件 獄中手記・遺書』(河出書房新社)をはじめ幾つかの本に別れて活字化されているが、今や絶版になっている。また、磯部のご遺族や図書館等に未公開文書が残っている。どうせ文庫にするなら、それらを全部集めてみたらどうか、というものでした。
筒井先生のアドバイスを受け、ライブラリーを探し始めました。国会図書館の「河野司文書」(2・26事件に参加し自決した河野寿大尉の兄。磯部の獄中手記をはじめ、数多くの2・26事件関係文書を発掘された人です)には、磯部が蹶起する前年冬に綴ったと思われる日記の「写し」が収蔵されていました。
「磯部浅一日記の一部」とあるように、磯部の自筆ではありません。恐らく、事件発生直後、官憲が押収した日記を写し取ったものでしょう。
また、群馬県立図書館には、磯部の供述調書の、これもまた「写し」が残っていました。
アラフィフより下の世代にはなじみがないかもしれませんが、昔の学校で渡されるプリントには、右のようなガリ版刷りと呼ばれる印刷物が多かったのです。薄紙にガリ版で綴った記録は、裁判が始まる前に磯部を尋問した記録としては、現時点で唯一の貴重な資料ですが、これも当然、原本ではありません。なぜこの文書が群馬県立図書館に所蔵されているのか、但し書きがついてないので何とも言えません。
このように、資料というものがすべて完全な形で残るわけではありません。時間の荒波に晒されるなかで残った資料から組み立てるしかないのが「歴史」です。だからこそ様々な解釈が生まれるのが、「歴史」というものかもしれません。
後編では、磯部浅一のプライベートな側面について書きます。
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