中公文庫プレミアム 編集部だより

永遠に読み継がれるべき名著を、新たな装いと詳しい解説つきで! 「中公文庫プレミアム」を中心に様々な情報を発信していきます!

『一老政治家の回想』における「政治と金」

編集者Fです。

 

三ヶ月ぶり刊行の中公文庫プレミアム『一老政治家の回想』には、こんな記述があります。

 

当時の選挙のありさまは、無論演説はするが、演説は二の次で、買収と戸別訪問が主だった。(中略)その時分は有権者の数も知れたものだったし、一々自分で町内を歩いていた。つまり泣き落しに訪問するので、それが成功した。最初は金を使うわけではなく、ただ泣き落しであった。(中略)後には名刺の裏に金を入れるようになったが、初めは金じゃない、ただそういうことで泣き落しというか、芸者のお披露目のようなもので、演説よりその方が効き目があるということであった。

 

これは、明治の終わり頃の選挙風景ですが、戦後になってもしばらくは、同様の事態が続いていたようです。

私の母親は、昭和三十年代、故郷である四国の銀行に数年、勤務していたのですが、母が言うには、選挙が始まると、銀行から五百円札が消えるのだそうです。

f:id:chukobunkop:20151125122547j:plain

当時の五百円がどの程度の価値があったかは知りませんが、一軒一軒戸別訪問し、名刺の裏だか何かに貼り付けて置いてくるにはちょうどいい相場だったのでしょうね。

ちなみに私は、小学校の修学旅行の帰り、なぜか公民館みたいなところに生徒一同集められ、よく知らないおっさんの講話を聞かされ、鉛筆をもらって帰ってきて親に見せたら、地元選出の衆院議員の名前が入っていると言われました。

 

こういうエピソードは、官僚や軍人出身の政治家の回想ではなかなか出てきません。戦前の政党政治がなぜ崩壊したのかを多面的に考える上で、貴重な回想録だと思います。