『13日間 キューバ危機回顧録』裏話
編集者Fです。
キューバ危機といえば、ケビン・コスナー主演映画『13デイズ』を連想される方も多いのではないでしょうか。ソ連の支援で始まったキューバのミサイル基地建設をめぐり、アメリカとソ連が危うく第三次世界大戦の瀬戸際まで追いつめられた歴史的事件を、ケネディ大統領と閣僚、側近たちの会議(エクスコム)を中心に再現したドラマです。
Trailer Thirteen-Days - YouTube
実を言いますと、このエクスコムの会議はケネディの指示により密かに録音されていて、メンバーの誰がどういう発言をして、どういう過程で意思決定がなされたのか、すべて記録されており、現在では全部公開されています(このあたりの記録と情報公開のあり方は、さすがアメリカです)。
この録音された記録については、本書の解説を執筆いただいた土田宏先生の著書『ケネディ 「神話」と実像』(中公新書)や、『ケネディ演説集』の解説者・越智道雄先生の著書『ケネディ家の呪い』(イースト新書)に一部紹介されていますので、ぜひご覧ください。
さて、この危機の13日間において、ケネディの課題はいかに自国の強硬派を抑えるかでした。なかでも当時の空軍で大きな発言力を持っていたのが、カーティス・ルメイ将軍でした。
ルメイ将軍は、あの東京大空襲を指揮して非戦闘員にも無差別爆撃を敢行し、空襲に赴く搭乗員に「何トンもの瓦礫がベッドに眠る子供のうえに崩れてきたとか、身体中を炎に包まれ『ママ、ママ』と泣き叫ぶ三歳の少女の悲しい視線を、一瞬思い浮かべてしまっているに違いない。正気を保ち、国家が君に希望する任務を全うしたいのなら、そんなものは忘れることだ」と発言したり、ベトナム戦争時には北爆(北ベトナムの戦略爆撃)に際し「ベトナムを石器時代に戻してみせる」と豪語したような人物です。
ケネディにとって本当の敵とは、冷戦の相手であるフルシチョフや、キューバのカストロではなく、こうした身内だったかもしれません。彼らの強硬な意見をどう抑えて、大戦を回避させたかは、ぜひ本書をお読みください(土田宏先生の最新研究成果を盛り込んだ18ページに及ぶ解説も必読です)。
ウクライナをはじめ世界各地で紛争の火種が絶えず、日本国内でも排外主義の兆しが見え隠れする今日において、一見不気味な行動をとる他国を前に指導者がいかに理性を保つことが大切か。いえ、そうした理性は指導者に限らず、われわれ一人一人の国民にも求められる時代であると、編集を進めながら改めて痛感させられました。