映像化されたノモンハン事件
編集者Fです。
7月25日刊行中公文庫プレミアムの一冊「ノモンハン 元満州国外交官の手記」(北川四郎)は、サブタイトルにあるとおり、1939年に日本・満州連合軍とソ連・モンゴル連合軍が激突したノモンハン事件に、満州国外交官として参加した著者の貴重な手記です。
現在でも、国境確定問題は難しいテーマです。本書でも言及されていますが、北方領土、竹島、そして尖閣諸島と、現在の日本は外国との領土をめぐる難題を抱えておりますが(竹島に関しては問題が存在しないといのが日本政府の立場)、戦前の日本が国境問題を原因としてついに軍事衝突にまで発展した一例として、ノモンハン事件は今日でもある種の教訓となりうるのではないか。そういう意図の下、復刊に至ったわけです。
本書の眼目は、モンゴルと満州(それぞれの背後にあるソ連や日本)との国境問題を中心としてノモンハン事件を語ることにありますので、具体的な戦闘描写は控え目です。その代わりというわけではありませんが、これまでノモンハン事件について映像化された二作品を紹介したいと思います。
まずは、1970年から73年にかけ、日活が社運をかけて製作した『戦争と人間』三部作の第三部『戦争と人間 完結編』。『人間の条件』で有名な五味川純平の原作をもとに、張作霖爆殺事件からノモンハン事件にいたる戦前の歴史を、満州に進出した五代財閥の一族を軸として描き、滝沢修、芦田伸介、高橋悦史、浅丘ルリ子、北大路欣也、吉永小百合、高橋英樹、江原真二郎、三国連太郎、高橋幸治、山本圭、加藤剛、岸田今日子、栗原小巻、石原裕次郎、二谷英明、田村高廣、松原智恵子、丹波哲郎、西村晃、佐久間良子と豪華スターがずらりと顔を揃えた超大作でした。本当は太平洋戦争まで描かれる予定だったようですが、日活の経営状況もあってノモンハン事件で完結せざるを得なかったと言われています。
ただ、ソ連軍の協力を得て、現地でロケした映像は迫力があり、おそらく日本映画で唯一映像化されたノモンハン事件として貴重なものではないでしょうか(私自身、小学生の時テレビでこの映画を見て、ノモンハン事件に興味をもった思い出があります)。
もう一つは、2011年に制作され翌年日本でも公開された韓国映画『マイウェイ 12,000キロの真実』。日本軍将校(オダギリジョー)と朝鮮人軍属(チャン・ドンゴン)の対立と友情を軸に、ノモンハン事件、独ソ戦、ノルマンディ上陸作戦までを描いた大作でした。
昨今の風潮から、反日映画と決めつけるムキも強く、さほどヒットには結びつかなかったようです。確かに、新しく赴任してきた司令官(オダギリジョー)が、前任の司令官(鶴見辰吾)に自決を命じるなど、日本軍の非情さを強調した展開もありましたが(事件終結後、司令部が指揮官にピストルを渡し自決を強要した史実をアレンジしたものか)、オダギリジョーさん扮する日本軍人は、主人公のチャン・ドンゴンよりある意味、人間的でかっこよく描かれていて、個人的には反日感情は覚えなかったのですが、それはともかく、史実の再現を重要視した『戦争と人間』に比べ、こちらは美人の中国人狙撃兵が絡んだりして、よりエンタメ色が濃厚でした。
これらの映像作品を通して、歴史的事実をビジュアルとしてとらえることが、活字を読む上での理解の助けになれば幸いです。
なお私事ですが、昨年の夏、ノモンハン事件の現場を訪ねました。その時に撮影した動画なども、こちらでおいおい、紹介したいと思っております。